痛みと心地よさと愛しさ





「な、に」

突然腕をつかまれて、いつもみたいに反抗しようと思ったのに、振り向いて目が合うとそれもできなくなった。
へらへらしてる顔なんてどこにもなくて、ただ真剣な顔をして掴んでいる腕をそのまま振り上げられる。
身長差があるため足が少し宙に浮いた。
限界まで掴み上げられた腕が伸びて痛い。

「今なんて言った?」

顔を目の前まで近づけられて、思わず目を逸らす。
それが気に食わなかったのか、掴まれている腕に更に力が入る。

「痛い、」
「答えろ」

…ただ、あたしが勝手に嫉妬しただけだった。
おっさんがふざけてるのはわかってる。 けどおっさんのジュディスやエステルに対しての態度が気に入らなくて、そのくせにあたしにはからかうような言葉しかかけなくて、あたしがおっさんに1番近いはずなのに、その違いがもどかしくて何か悔しくて。
どうせジュディス達の方がいいんでしょ、ってそのまま口に出したら、こうなって。

「リタっち、わかってる?」
「何が」
「おっさんも男だよ、こんな細い腕、折ろうと思えば折れちゃうよ」
「………は」

ぎち、っという音と共に更に力は強められた。
爪が食い込んで痛い。
放そうと暴れて腕を振ったってもちろん放れない。
力の差を、今更思い知った。
痛みのせいか、徐々に目頭が熱くなってくる。
泣きそうになっているあたしを見てか、おっさんはすぐに腕を緩めた。

「わかった?おっさんね、こんだけ力あんの。リタっちを押さえつけることなんて簡単にできちゃう。」

笑っているはずなのにどこか冷ややかな目を向ける彼がすごく怖い。
怖くて、寸前まで耐えていた目からぼろぼろと涙が零れだす。
おっさんはあたしの腕を放して、掴んでいたその手で頬に落ちた涙をそっと拭ってくれる。

「…だから、変なこと言うな。おっさんだって今みたいに…いや、それ以上のことをリタっちにしてしまいそうで怖いんだから」

ゆっくりと両頬に手を添えられると、涙を拭い取るように瞼にキスが落ちてきた。
さっきまで怖くてたまらなかった人が、今はまるでさっきのあたしのように震えている。

痛む腕を見てみると、おっさんの手の形がくっきりと残っていて、動かす度に少しだけ痛みが走った。
この痛みが、おっさんからの感情が身体に染み付いてるようで、少しだけ心地よかった。




束縛
(なら、放さないでいて)









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