こっちをみて。






「キャナリってどんな人だったの」

この歳になって恋愛経験の1つも無いなんておかしいとは思ってた。
けどまさか、ずっと片思いしてる人が居たとも思わなかった。
しかもその人がもうこの世には居ないなんて。
別にだからっておっさんが可哀想とか、同情なんてしてあげないけど、なんとなく気になった。
だって私だって、別にこういうのに興味がないわけでもないし。
おっさんはいきなりのことで驚いたのか、目を見開いてこちらを見ていた。
それに何だかムカついて一発蹴りを入れて、さっさと質問に答えなさいよ、と2度目の問いかけをした。

「いきなりだねリタっち」
「ちょっと気になっただけよ」
「まぁいい女ではあったな、この俺様が惚れちまうくらいだからな」
「ふーん…」

あら、めずらしく反論しないのね、なんて言っておっさんは驚いていた。
今のおっさんの言葉が別に嘘じゃない、って、自分でもわかってしまった。
だって自分の想い人に”自分ではない別の想い人”が居るってわかってたのにずっと好きで居続けるなんて、あたしにはできない。

「…自分を見てくれなかった人を想っていて、辛くないの」
「辛くないね。いや、辛くなかった、ね。想うだけでも幸せなもんよ」

そう言ったおっさんの目はどこか寂しげなのに、いつものにこやかな笑顔を向けてくるもんだからその瞳はかき消されてしまった。
その言葉に少しだけ胸のあたりが痛くなったけれど、今ならそれが妙にわかるような気がしたのは何でだろう。
でもそれでもあたしは、想うだけじゃ満足なんてできないわ。

「今も、おっさん幸せだからね」
「は?」




渇いた瞳
(今あなたの瞳には誰が映っているの)









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