ごめんねごめんね、あたしのせいなのよ。











「むかつく」

彼女はそう言って俺の胸に拳を落とした。

いつものように眠ろうと思い、ベットへと腰を下ろすと、いきなり彼女の鉄拳が飛んできた。
腹を殴られた勢いでベットへと背中から倒れ込むと、それを更に押さえ込むかのようにリタが馬乗りになった。
拳を上に振り上げた体勢でしばらく俺を睨み付けて、何が何だかわからない俺はとりあえず防御の構えをして目を閉じる。
そしたらその言葉と一緒に拳が落ちてきたのだ。
痛みをあまり感じないその感覚に閉じていた目を開くと、リタは涙を溜めた目をこちらに向けていて、瞬きすると顔からすり落ちる髪と一緒に頬を伝って流れた。
雫はそのまま俺へと落ちて、リタはもう一度拳を振り上げた。
そしてその言葉が呟かれた。

「むかつくのよ」
「な、なにが」
「あたしが、子供だからって、何で、何も、」

拳と一緒に涙ごと胸へと顔をうずめられた。
ほんとに何が何だかわからないのだが、そのままリタが顔を深く埋めるように頭を抱えて撫でてやる。
拳は一度握りなおされて、俺の上着を強く掴んでいる。

「どうしたのよ、リタっち」

最後まで聞いていない言葉からは何も推測することができない。
泣き止むまで待つか、と頭を撫で続けていると、ぼそぼそと小さく声が聞こえた。

「あたしのこと、ほんとに好きなの」
「え?」

語尾は高く発音されていた。
ベッドに倒れ込んでいる体勢のまま首を傾げると、リタが顔を上げる。
濡れている目元を自分で一度だけ拭うと、馬乗りの体勢のまま俺と目が合う位置まで移動した。
リタの髪が丁度俺の頬の辺りに当たってくすぐったい。
少し顔をしかめると、すぐに視界が暗くなった。

「…!リ、」

止める間も無く、唇に柔らかい感触。
頬に彼女の手を添えられていて、一層強く押さえつけられるそれから逃れられなかった。
何度か角度を変えてくる口付けに懸命に答える。
どこかたどたどしいその行為が逆にこちらを昂らせた。
彼女の後頭部に手を添えた瞬間に何かを察知したのか、すぐに唇は放された。

「キス、あんたと初めてした。」

その言葉にそうだね、と相槌をうつとすぐに彼女の表情は曇った。
”あんたと”の4文字が気になったが、あえて聞かないようにする。
いつのまにか涙は乾いたようで、頬に残る跡を撫でるとすぐに頬を赤らめる。
起き上がって、今度は自分から唇を寄せると、渇いていた涙がまた溢れ出した。
どうしたの、とまた同じ言葉で問いかけると、彼女は首を左右に振った。

「なに、おっさんわからんよ」
「何もないって言ってんでしょ」
「じゃあ何でおっさんのことむかつくの、何でほんとに好きだなんて聞いたの」

前から後頭部にかけて頭を撫でていると、ついにその手が振り払われた。
むかついて何も抵抗できないように抱き締めると、彼女は何の抵抗もしなくなった。
安心したように背中にゆるく腕を回す。

「ちゃんと好きだから安心してね、リタっち」

彼女には見えないけれど、笑顔でそう言ってみせた。
ぎゅう、と腕に強く力が入れられると、こっちからも強く抱き返す。

「…知ってるわよ、知ってるけど、あんたが何もしてこないから、あたし、」

ああ、そうか、不安だったのか。
ごめんね、と囁くと、何であんたが謝るのよ、って彼女はまた泣き出した。
そして大きな泣き声を晒しながら彼女は喚いた。

「あんたが何もしてこないから…!あたし、ユーリからのキス拒めなかったじゃないの!」
「は!?」

予想外の言葉に、自重していた自分に後悔する。
突き放すようにリタの場を離れて、ユーリのところへ向かう。
そのあとユーリがどうなったかは、レイヴン自身もあまり覚えていないのだった。










予想外
(あんたが悪いのよ)








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