あなたを想っていてもいいですか。











久々に城へと遊びに来てみれば、エステルは最近ずっと自室に篭りきりだという話を聞いた。
自室の前へ行き、ドアをノックしても返事は無い。
ドアを開けるとソファに座っている後姿が見えて、いるんじゃないか、と思って名前を呼んだのにそれにも気付かない。
見ると本か何かを熱心に読んでいるようで、集中しきっていてすぐ後ろにいる俺にさえ気付かなかった。

「エステル」

もう一度声をかけてソファごしに後ろから肩を叩くと、エステルの肩が大きく跳ね上がった。

「ゆ、ユーリ…!」
「何読んでんだ」

驚いた表情でこちらを向くと、膝の上に置いていた分厚い本がばさりと床に落ちた。
慌ててページを確認しながら拾うと、エステルはソファの真ん中から端へ移動し、俺の座るスペースを作ってくれたようだった。
そのまま背もたれを飛び越えて座ると、エステルはページにしおりをしてから本を閉じて表紙側を俺に向けてきた。

「とっても面白い本なんですよ、夢中で何度も読み返してしまって。」
「どんな話なんだ?」
「身分違いの恋のお話なんですよ。」

彼女がとても嬉しそうな笑みを本の横から覗き込ませるもんだから、それにつられるように俺も微笑んでしまう。
ぺらぺらとページをめくりながらストーリーを説明する姿がとても可愛いな、なんて思ってしまったりして。

「主人公はお城の中でいつも退屈な生活をしていたお姫様。
そんなお姫様をお城の庭からこっそり見ていた騎士さんが、お姫様を連れ出して旅をするお話なんです」

なんともエステルが好きそうな話というか、俺達と旅をしていたからかこういう冒険物の話がとても気に入っているらしい。
恋にでも憧れているようにそのお姫様と騎士さんとやらの話を長いこと説明されると、満足気にまた微笑んだ。

「関係が俺達みたいだな」
「そうですね、ユーリは騎士さんではないけれど私を旅に連れ出してくれました」

いつまでも嬉しそうに話していて、俺が遠まわしに伝えたことも彼女には通じていないようだった。
エステルの膝から本を取りあげ、しおりを落とさないようにぺらぺらとめくっていく。
エステルは突然のことにびっくりというか、不思議そうな顔をして横からその姿を眺めていた。
最後の方のページまで開くと、ゆっくりと口を開いた。

「エステル」
「はい?」
「”僕と一緒にこの世界をたくさん回ってみてどうでしたか?”」
「ユーリ…?」

エステルはまだ不思議そうな顔をして首を傾げている。
気付かないのか、と軽くため息を付いて、もう一度口を開いた。

「”僕はとても幸せでした。あなたが隣に居て、あなたが時折見せてくれる笑顔に心が満たされました。いつも退屈そうな顔をしていたあなたに外の世界を見せてあげることができて、僕はとても幸せに思います。僕はあなたを想っていていいですか?”」
「……!”私も、とても幸せでした。あなたが隣に居てくれて、あなたにこの広い世界を見せてもらって。私の知らなかったこと、あなたがたくさん教えてくれました。私もあなたのことをずっと想っています。”」

顔を見合わせてお互い笑いあった。
ラストのシーンの騎士の台詞を読むと、エステルが姫になって言葉を返してくれる。
ただの台詞だったのに、エステルは笑いながら少し頬を染めている。
その笑顔にとても心が満たされた。










姫と騎士の物語
(俺はとても幸せに思います)








- mono space -